NHKスペシャル 医療「再建」には遠かった!

●NHKスペシャル「医療再建」の感想

2008年12月21日(日)  21時00分~22時48分
NHK総合テレビ 全国放送

番組へのリンク


上の番組をなんとか手に入れて、見てみました。以下はその感想です。

「再建」には遠かった

医療「崩壊」ではなく「再建」としたところに、解決策を提示していきたいという制作者の意気が感じられたが、実際はあたりさわりのないコメントが多く、「再建」には遠かった。これは、出演者側があまりに重要な立場にいる人ばかりで、自由にコメントできなかったというのもあるかもしれない。

それなら、NHKじゃ難しいかもしれないので、民放で、ばしばしコメントする医療関係者を持ってきて、医療崩壊について語ってほしい。つまり、協議会委員とかの当事者じゃないけど、医療の事情を知っている人。医療ジャーナリストの人とか、日本脱出してしまった(つまり、日本での上下関係があまりない)欧米で働く元勤務医とか。なんて、現実的じゃないかも知れないけれど。

今は無難な意見を聞く時でない、Brain stormするべき時だ。突飛な意見も含めてテーブルに出さないと。その中から探っていかないと、解決策は見つからないのでは?

面白かったコメントや場面

医療へのお金は投資である、結果(アウトカム)が回収できなければ責任が問われますというコメント。このような姿勢はpragmaticで素敵だと思った。医療は奉仕であり、お金のことを言っちゃいけないという雰囲気はすでに偽善に近いものがあるだろう。それは、国家の財政と社会保障に相当余裕のある時には言っても許されることではないだろうか(当然、今はその時ではない)。

地域医療計画で、地域で必要な医師の数は示されていない。基本的なデータを把握していない、というのは面白かったし、怖かった。GISなどを使って分析しようにもその前のデータがないのだろう。それは、国でリーダーシップをとってやっている取り組みではないのだろうか?

美容皮膚科に転じた女医さんが、留守電のボタンを押して去るシーンがすごくいい。 「営業時間内におかけ直しください」というアナウンスの中、暗闇で終わる映像がとても象徴的。女医さんが、quality of lifeをとって美容皮膚科をやっていることについて話す時、少し悪そうな、悲しそうな顔をするのが面白かった。この人は開き直っていない、と感じた。
なかなかいい給与で、9-5時の仕事で、週末は休みでコールもなし(アメリカではあり得る話だ)という仕事の口があったら、この女医さんは内科(もしくは、とにかくもっとニーズのある科)に残ったのではないだろうか。

どんなに大変なのか?

勤務医は大変というが、具体的な働きの状況について言及していないのが残念だった(夜中にご飯を食べているシーンだけ)。これでは、一般の人はよく分からない。
実際には、偉い先生でもアルバイトをしていたり、トイレにも行けないほど忙しいこと、ここ数週間子供の顔を見ていない、あまりの忙しさに何か見逃したのではないかと不安になる、忙しさのあまり薬のアレルギーに気づかずひやっとしたなど、厳しいエピソードはいっぱいあるはず。医師が匿名で、声を変えていていいので、じゃんじゃん出してほしかった。形成外科医に関しては、収入が良くて週末休めるので希望者が多数だそうで、学生がぞろぞろ臨床をしている姿が出てくるが、やっぱり匿名でいいので、ゆったりとゴルフする形成外科医の後ろ姿とかを出してほしかった。
(もしかして、こんな風にすると、形成外科医の方々から抗議が来るから、番組は作れないのかしら?)

開業医の数を地域によって制限する話

すでに開業している医師の数によって、地域ごとに開業を制限し、夜勤勤務を義務とするドイツの話は面白かった。
でも日本で開業を制限したのでは、淘汰により質のいい開業医の確保が難しくなるのではないだろうか。自由標榜のせいでプライマリーケアに関する知識にばらつきがあるため、家庭医の訓練を受けた医師が例えば埼玉で開業しようとして、開業権を得られず、実はその地域ですでに開業している人はプライマリーケアの知識に欠けている、という場合、地域の住民の医療の質が上がらない。

(もしかすると、淘汰で質の悪い開業医はなくなるという前提自体、間違っているかもしれないが。)

それから、開業を制限すると失業する医師が出てくるかもしれないとのコメントだが、それは地方に行くのもいやだ、勤務医になるのもいやだ、都会で開業したい、という医師が開業できない、ということだろうか。それは失業というよりは希望の職につけない医師が増えるということだろう。それは同情するが(そして、ぜひ、 勤務医や、地方で働く医師の待遇を改善する必要があるが、)失業とは呼べないのではないだろうか?


医師の強制配分について

医師を強制的に地方に行かせることに関して、「実際、田舎で開業したら破産する」というコメントがあって、びっくりした。まず、第一の疑問は、本当に田舎で開業している医師は、破産寸前か、ともかく報酬が少ないのか?だとしたら、診療報酬が少なすぎるのではないか?自分の無知をさらけ出すようだが、「高齢者_%以上の過疎地域に開業した人は、_%上乗せで診療報酬を出す」というシステムはないのだろうか?
ないとしたら、考えてみたらどうだろうか。医師不足の地域に開業するインセンティブは、色々な手で増やすべきだが、実際診た患者の分に上乗せで払うのは、政府側からすれば「結果が出たあとの後払い」で、適切なのではないのだろうか。

自由標榜と、患者の権限

自由標榜は先進国ではほかにほとんどないというのは、面白かった。アメリカのシステムに慣れていたので、自由標榜を知った時、「それって、すごく危なそう」とびっくりしたけれど、確かニカラグアでも似たようなものだった。しかし、日本はニカラグアとは違う(ニカラグアのGDPは、450ドル台で、34,000ドル台の日本の76分の1である)。

自由標榜の意見に対し、医師のコメントが、 医学校をちゃんと出た者が標榜する「権限が守られるべきではないか」というものだった。

権限!

そんなことを言ったら、知識だけでなく、その分野の経験もある医師に診てもらいたい、患者の権限は?

「内科」と掲げて開業したばかりの外科の専門医よりは、糖尿病も含めて、多くの患者を多く診てきた医師に血糖値のコントロールをしてもらいたい、患者の権利はどうなのだろう。医学校でA1Cや、glipizideなどについて習ったかもしれないし、知った顔で毎回薬をちょっとずつ変えて血圧についても言及することはできるかもしれない。
が、尿タンパクをチェックする頻度は?眼底検査は?低糖の症状対策は?インシュリンを始めるタイミングは?Metforminの副作用でビタミンB12値が下がることは、ちゃんと考慮できるのだろうか?

医学校と臨床ローテーションでは、経験とは言えないのではないのだろうか?

上級実践看護師に関する本(Jansen & Zwygart-Stauffacher, 2006. Advanced Practice Nursing)によれば、リビアバイという、医療を研究した哲学者は、医師は「ケアする権利(right to care)」に注目したが、看護師は「ケアする義務(duty to care)」について多く語っている、と観察した。

医師や看護師に、根性で頑張れ、献身的に職業に身を捧げろ!とは、てんで思わないが、自由標榜する「権限」を訴えていることは、患者の安全より自分たちの職業の安定の方が大事だということではないだろうか?duty of careを、考える必要がある。

もちろん医師会や医師の中でも色々意見はあるだろう。私の祖父も当然、自由に好きな科を標榜していたと思う。それに、duty of careなどというと、たらい回しをしたのは献身的な意識の低い医師のせいだなどと、誤解を助長しそうだ(本当はシステムのエラーのせいなのに)。それは不安だ。

ただ、そのコメントはあまりに患者の立場を考えていないのではないかと感じた。

最後に

偉そうに色々書いてしまったが、このようにメジャーにテレビで取り上げてくれるのは有り難いことである。と同時に、問題の深刻さをも語っている。

ところで、このような番組のscript(言った言葉を全て書き出したもの)は、ウェブとかで見られないのだろうか? 1年以上の時間をかけて作った番組だと聞いたが、それが数回の放送で終わってしまうのはもったいない。ウェブにスクリプトを載せてくれれば、医療問題を研究する学生などが論文に引用したり、いろいろ活用できると思う。
ただが無理なら、1000円でダウンロード可能、とかでもいい。
どうだろうか。


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Comments

あの番組は全体としては失敗でしたが

チーム医療のための新しいサイトを知人の医師に紹介されて、昨年の12月から読んでおります。自分は療養病院(リハビリ病棟)勤務の医師で、チーム医療の素晴らしさを日々実感してます。残念ながら救急医療においてはチーム医療がほとんど根付いてないように見えます。

 あの番組は制作者の意図が最初から決まっており、意図からはずれた発言がほとんどすべてカットされたと聞いてます。
 当たり障りなく、しかも医師の強制配置という意図が明白でした。あの番組は大きな話題になり、私の知る医師のほとんどすべては否定的にとらえ非難しておりました。自分は失敗ではあったが、問題に触れたことで評価しました。

■総合的診療能力を持つ医師
 Family physicain, General Practitionerなぞ、厚生労働省は「総合医」という呼称を用いて、養成したいと最近強く主張するようになりました。
 意図はどうみても安上がりだからです。つまり総合医が365日24時間最初に患者をみる体制ができれば、医療費が安くなるという想定。
 総合医。例えば米国では半世紀以上(でしたか?)の歴史があり、試行錯誤して養成システムが作られてきたわけです。
 日本には総合医の養成システムは存在しません。何十年もかけて作る覚悟は厚労省にはなく、そもそもそのようなシステムは医師の専門集団が自発的に自律的に整備するべきもので、上から作ることなどできるはずがありません。

■医師の強制的配置システム
 総合医なるものが医師の自律的取り組みで要請されるようになって初めて、「計画配置」も可能になることでしょう。総合医の要請には金が膨大にかかりますから、金については政府ないし保険者の、もちろん市民の同意が欠かせません。いずれの条件も皆無なのが日本。
 あの番組は議論の発端にはなりえますが、おそらくそのままで終わるのではないでしょうか

Unknown

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