I. 米国のNPについて   e. NPと診療報酬

NPは医師と同じように医療行為に対して診療報酬が支払われるのでしょうか?

簡単な答えは、YESです。州と、保険会社によって違いますが、医師と比べて85-100%の診療報酬が支払われます。

ただし、詳しく書こうとすると、あまりにシステムが複雑怪奇なので、説明が大変長くなります。下は、自分の知識と、聞いてまわったのと、調べたのをまとめて書いたのですが、あくまでもこれはコネチカットやニューヨーク州周辺の話とお考え下さい。

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外来の場合
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メディケアやメディケイドだと大抵の州では医師が同じ患者を診た場合の85%が支払われます。ただし、カリフォルニアなどでは100%(医師と同じ)です。それがクリニックに入ってきて、NPはクリニックから給料を受け取ります。そのために、私はmedicare provider ID申請時にうちのクリニックを報酬受け取り代理人としました。
もし開業しているNPなら、もちろんメディケア・メディケイドから報酬を直接受け取ります。

私立の保険会社だと、会社と、またそれも州によって全然違います。今までは100%払うところが多かったのが、最近はコストカットで85%の方が多いと聞きます。それも、大抵はクリニックを受取人に指定して、NPは給料を受け取ります。

この「100%」というのも曲者で、もちろんご存知でしょうが、あるレベルのケアに対していくら報酬が出るか、というのは保険会社ごと違います。それで、「いくらで請求してもどうせ少なくしか返って来ないんだから、とりあえず適当に高い値段を診療報酬申請書に書いておく」そうです。「うちではこのレベルのケアをすると270ドルです」と言って提出し、それが保険会社Aだと150ドル、Bだと140ドル、Cだと177ドル返って来るそうです。この請求する値段は、毎年一律に上げて、常に診療報酬より高めになるようにしておく、とある病院の方は言っていました。

これで問題なのは、万が一保険の持っていない人が来た場合、その270ドルをチャージされるということです。参考までに、保険の無い人の婦人科検診は大体250ドル、保険の無い患者さんに泌尿器科に行ってもらったら、10分診療で200ドル、母が日本から来て背中を痛め、ステロイド注射を打ってもらった時はやはり10分診療で810ドル、でした。保険の無い人は逆に高い値段を払わなくてはいけない仕組みになっているのです。

62%のNPは、平均して1時間に3-4人の患者を診るといいます。NPも医師もいる診療所の場合、医師と同じ数の患者を診るように設定されている所もあれば、NPはカウンセリングなどに時間のかかることを考慮して、医師よりは少なめの患者を診るようにされている所もあります。

ところで、メディケアだと、医師の名前の下にNPのサービスの報酬を請求する、incident to billingというシステムがあります。これは、その複雑さ故に評判が良くないのですが、要するに、「医師が提供したことのあるケアの延長のケアをNPがした場合のみ、85%でなくて100%支払う」というものです。もし血圧の高い患者さんが、3ヶ月後に血圧チェックに来た場合、NPが診ても、医師がすでに診断したものの続きなので医師の名前の下にメディケアに請求を出して、100%診療報酬が支払われます。

ただし、この診察中の患者さんが「ところで、最近足が痛くて」なんて言い出したら、それは新しい診断がつくというなので、NPの名前で出して、85%しかクリニックは受け取れません。もし血圧チェックのみで新しい診断が要らなかった場合でも、「医師はその時点で同じ建物の中にいること」「医師はその時点でどこにいてもいいが電話を受け取れる場所にいること」「医師は50マイル以内にいること」など、州によってincident to billingをできる要件が全く違っています。この辺をあやふやにすると、メディケアの人がカルテチェックに来た時にばれて罰金が科せられるそうです。しかし、まわりを見ると、みんなこの不可能な複雑さゆえにincident toは利用していない医院も多いようです。



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入院や手術の場合
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この場合、そう単純には行きません。私は外来専門なので病院に関しては知識不足なのですが、NPは病院で診た患者に関しても診療報酬が出ます。ただし、給料制でその病院に雇われている限り、そのNPが直接診療報酬を受け取ることはできません。病院が代理人として受け取って、その中から給料を出すということになります。このため、medicare provider IDを申請するときに、病院を代理人に設定しなければいけません。

NPが例えば近くの内科クリニックで働いていて、自分の患者の中で入院患者が出ると、その病院内で患者を診に行くという設定にしていると、病院からは給料が出ていないので直接保険会社にNPが請求し、報酬を受け取ることができるようです。その場合、病院内で患者を診る権利 (hospital priviledge)をNPが申請して、授与されてなければいけません。YALEなどでは、「1年に__時間以上YALEの医学生・NP学生に講義をすること」などの条件つきで、hospital pviviledgeが授与されるそうです。直接病院に給料制で雇われいる場合、priviledge うんぬんは関係ありません。

ちなみに、病院では例えMedicareでも、incident to billingは許されていません。

手術の場合、hip replacement なら10日までで、いくら、というようにglobal feeで支払われるので、NPは報酬対象にはなりません。

それでもNPを採用する理由としては、
1.人件費の削減
どうせ誰か雇わなきゃいけないなら、給料が三分の一から半分で、医療事故保険も格段に安いNPの方を、という理由です。RESIDENT DRも安い労働力ですが、NPはRESIDENT DRと違って数年ごとに入れ替える手間やコストはかかりませんし、長くいればいるほどMDとの連帯もスムースに行くようになります。
2.医療安全
もし合併症を併発して、患者さんが長く入院した場合、GLOBAL FEE(1患者、1疾患につきいくら)で払われている病院としては、その人の滞在が一日延びるごとに大変なお金がかかります。NPがいると合併症の率が減るという研究などは、すでに知られています(http://www.hhnmag.com/hhnmag_app/jsp/articledisplay.jsp?dcrpath=AHA/PubsNewsArticle/data/0308HHN_FEA_NursePractitioners&domain=HHNMAG)。
3.医師の満足度を上げる
看護師よりはずっと高度な知識と権限を備えたNPがアシスタントとしいていることで、医師は安心して色々と任せられます。ROUTINEなこと、カウンセリングなどはNPがやってくれるので、専門的な医学に集中できます。時間も増えれば、満足度も上がるし、医療事故も減るでしょう、という期待もあります。こちらに日本から来た外科の医師の方がおっしゃっていた言葉ですが、「手術前のphysical examはNPがやってくれる。患者さんの質問にも答えてくれる。手術の準備もやってくれる。手術は僕がして、縫合はPAがやってくれる。術後の経過はNPやPAがみて、小さな問題なら自分たちで処理して、翌日報告してくれる。大きな問題なら電話してくれる。僕は手術だけすればいいので、定時に家に帰れるんですよ。日本にいた時とは大きな違いです」とのことです。
4.患者の満足度を上げる
このように色々な疑問に答えたり、必要な薬を医師を待たないでも出してくれるNPがいることで、患者さんの満足度も上がりますし、そうすると万が一結果が良くなくても訴訟の可能性も低くなります。

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